10点 / 10点中
中高生以上の老若男女みなに是非読んでもらいたい、育児放棄されていた女子高生を中心に多くの成長を描く漫画。
読書猿(くるぶし)さんがTwitterですごいおすすめしていたので知って、読み始めたのだが本当に面白かった。
親を亡くした名家の隠し子である女子高生(スミカ)は、それまでずっと親戚間をたらい回しにされ、育児放棄を受けていた。そんな彼女が、遠い親戚の名門女子高のお堅い男性教師(吉成昭明)に引き取られ、初めてちゃんとした扱い、教育を受けて少しずつ変わっていく。
印象的だった場面が3つある。
一つ目、スミカが昭明と出会った当初、まともに衣服も持っていないスミカにスタイリストを家に呼んで服を買い与えたり、ひょんな事情で博物館に行ってなんとなく気になったことをすべて昭明が返答してくれることがあって、それをスミカが拒絶するシーンがある。
「今までの私じゃいられなくなる」と。
これは多少強引だが千葉雅也の『勉強の哲学』で書かれていた、勉強とは自己破壊であるということに似ていると思った。
客観的に見れば今までのスミカの環境より昭明との生活の方が圧倒的にスミカにとってもいいものだ。
それでも今までの環境、今までの当たり前から別の環境へと移ることになる、その恐怖を直感的に感じているのではないかと思った。
まあ、もう少し一般的に説明するなら現状維持バイアスや今までの環境との認知的不協和によるものといったほうがここでは正確なのだろうが。
二つ目、夏休みの間に昭明に引き取られて、夏休み明けに初めて学校に行った場面がある。
それまでは周りの生徒からは身だしなみボロボロで臭いもする変な女子生徒として避けられていた。
それが見違えて清潔になったことでざわついたり、しゃべりかけられたりするが、周りからの視線の変化だけでなく、スミカ自身も「クラスってこんなに人いたっけ」、と周りの見え方が大きく変わったところだ。
ずっと家庭で虐げられてきて学校でも避けられてきた過去から、学校は家から出て(家の中にいると邪魔扱いされる)時間をつぶすために行くだけの場所としか認識できていなかったのが、フラットな目で見ることで視点が開けたことが印象的に描かれている。
(おそらく「昭明」という名前はスミカの視界を照らす照明という名前付けじゃないかと想像。)
三つ目、この作品の他の人の感想でもとくに挙げられる場面だが、学校の勉強に取り組み直し始めるところがある。
そこで、数学とか、歴史とか、現代社会(政治経済)とか、「何で勉強しなきゃいけないんだ」という疑問から色々聞いたり、調べたりする。
その結果、元々は真理を探求していったものが、枝分かれしていったに過ぎなくて、元をたどれば全部つながってるんだ、と理解した場面も大人でもハッとさせられる素晴らしい視点だと思う。
上で挙げた3つ場面はいずれも序盤のスミカが成長する場面だが、高校生で昭明に出会ってから急激に成長するスミカが持つ常識をあまり知らないラディカルな目線が、昭明をはじめとする他者の重たい過去を解きほぐしてくれる場面が増え、それも素晴らしい。
人の成長を見守り、自分はどうなのかと見つめなおす契機にもなる、素晴らしい漫画を是非皆さんにも読んでいただきたい。
一つ注意点として、4巻目以降は現在電子書籍しかないので紙派の人はご注意を。
当時著者の藤のよう先生もどうすれば紙の本で出版できるのか著者自身もわからないとツイートされていて、それから数年がたつので、おそらく紙のコミックで出版されるのは結構絶望的かと思われる。
